平成12年10月11日

鳥取県西部地震調査速報

 

1.はじめに

平成12年10月6日午後1時30分鳥取県西部地方を震源とする地震が発生しました。

本報告はサンコーコンサルタント鰍ェ地震直後の10月7日〜10月10日に現地調査を行った結果をとりまとめたものです。

震源情報・被害情報はインターネットおよび新聞・テレビの報道を参考にしています。

 

2.震源の位置および規模

10月6日の気象庁の発表によると、震源地は北緯35.3度・東経133.3、震源の深さは11q、マグニチュード(M)は7.3と推定している。

図−2に震源地周辺の震度分布図を、表−1強振計(K-net)による主な地点の最大加速度を示す。

表−1 震源地周辺の最大加速度(ベスト6)

地点名

緯度

経度

最大加速度(gal)

N−S

E−W

U−D

江府

35.2794

133.4902

725

573

404

日南

35.1597

133.3088

629

595

289

米子

35.4227

133.3327

314

384

308

新見

34.9547

133.5044

528

817

171

横田

35.1763

133.0955

502

317

152

東城

34.8991

133.2830

476

409

134

 

各地の震度は最大が震度6強で日野町・境港市、震度6弱が西伯町、震度5強が米子市・新見市・落合町である。

地震の規模に関しては、その後、気象庁から「余震の起こり方から推定するとM6.9程度になる可能性がある」とのコメントがある他、東京大学地震研究所や科学技術庁のMw(モーメントマグニチュード)6.6、米国地質調査所のM6.5等の計算結果がでてきており、今後下方修正される可能性がある。

国土地理院では、GPSで観測した地殻変動データから断層の大きさを推定し、長さ約20q、幅約10q、最も浅い所で地下約1q、ずれの大きさは約1.4mと発表している。

東大地震研究所の解析では、断層は北西から南東へ長さ20q、幅10qにわたり水平方向のずれは1.6mと発表し、地震エネルギーは阪神大震災の4割程度と推定している。
3.被害の状況

現地踏査は最も大きな震度が観測された、日野町と境港市を中心に行い、道路・斜面・港湾施設・住宅の被災状況を観察した。

3−1.道路

全般に橋梁や擁壁等のコンクリート構造物は健全であり、一部のブロック積み擁壁を除いては、倒壊はもちろんクラックも発生していないように見受けられる。

主な被害は盛土および裏込め土の沈下で、これにより路面に数pから20p程度の段差が生じている。この現象は特に、橋梁取り付け部で顕著であり、被災範囲も日野町から溝口町および西伯町にかけて広い範囲で発生している。特に日野町根雨の国道181号線跨線橋では、ブロック積み擁壁の傾倒やはらみ出しを伴い、最大50p程度の沈下が生じている。

切土法面の崩壊は、小規模なものを除けば、国道180号線日野町下榎〜黒坂に集中して発生している。法面を構成する地質は風化花崗岩で、主な変状は表面のモルタル吹付の剥落であるが、数箇所で流れ目に沿ったブロック状岩塊の崩壊が生じている。

高速道路沿いの切土法面には変状は認められず、今回の地震では、道路沿いの切土法面は地震の規模の割には健全であると言う印象を受ける。

3−2.斜面

斜面崩壊は根雨周辺および西伯町に多く、急峻な斜面の崩壊と崖錐性の緩斜面の崩壊が見られた。

急斜面の崩壊は、日野町から溝口町および西伯町にかけて点々と発生しており、主に、風化花崗岩の表層部の崩壊である。規模は様々であるが、形態は花崗岩によく見られる幅の割に斜面長の長い、細長くて薄い崩壊である。

崖錐性の緩傾斜地の崩壊は、幅10〜20mで規模は比較的小さい。地盤が液状化を起こして発生したと考えられるもので、土石流状に地下水と共に流れ落ちる様な形態を呈している。特に、JR伯備線沿いで生じた崩壊は、本震で起きた崩壊土砂の除去作業中に余震が発生し、土石流となって約400mの土砂が崩壊したもので、ちょうど作業は昼食休憩に入ったところで、人的被害が出なかったのは奇跡的といえる。

 そのほか、径1mを超える巨大な転石が道路上に達した例も数ヶ所見られた。

3−3.港湾施設

境港市では、港湾施設および海岸部の液状化被害が発生している。

港湾施設では境漁港突堤に大きな被害が生じている。突堤は南北方向に約200m突き出た幅50mの構造で、護岸の傾倒・床板の沈下・屋根を支える支柱の傾倒が生じている。境港では地震の揺れが東西方向であったため、この南北方向に細長い構造の突堤に大きな被害がでたものと考えられる。

地盤の液状化は新しい埋め立て地で発生し、竹内団地では、いたるところで噴砂が生じ、路面の凹凸や団地内の水路護岸の崩壊が顕著である。

境港市の地盤は天然の砂州からできており、市街地のほとんどは微高地に発達している。この様な自然地盤では液状化は発生しておらず、建物の被害もほとんどみられない。

3−4.住宅・建築物

10月8日の新聞報道によれば、被災家屋は5268棟と発表されているが、木造家屋の瓦のずれ落ちや、小規模な壁の剥離が中心であり、家屋の倒壊やコンクリート建築物の被害は少ない。

住宅・建築物の被害は日野町下榎で最も顕著で、傾倒した家屋が数多く見られ、ブロック塀や石積みの倒壊も多い。

境港市では、新聞やテレビの報道で注目を集めた出雲大社上道教会をはじめ3棟の家屋の倒壊が認められたが、他に被害はほとんど発生していない。

 

4.地震断層

地質調査所の調査チームは西伯町上中谷の国道付近の路面で、今回の地震を引き起こした断層と見られる割れ目を確認した。割れ目は北北西から南南東方向へ延び、20〜30pのずれが確認されている。この割れ目の南東側の延長上に、今回の地震で最も被害の多い箇所が集中しており、おそらく、この線上に地震断層が潜在している可能性が高いと推定される。

科学技術庁防災科学技術研究所の資料では、この10年の間、ちょうどこの線上で微少地震が多発していることが判っており、前兆現象であったとの指摘もある。

 

5.まとめ

地震が発生した翌日から4日間で調査を行い、山間部では国道や地方道の通行止めもあり、十分に調査をしたとはいえないが、当初発表された地震の規模の割には被害は小さいという印象である。特に、橋梁や擁壁等の土木構造物の被害があまり見られなかったのは予想外であった。また、道路切土法面の被害も予想より少なく、震源断層付近に集中しているのみであった。

境港市は砂州に発達した町であり、いたるところで液状化が発生しているものと予想したが、大きな振動の割には、自然地盤はいたって健全であった。

余震はまだ続いており予断を許さない状況であるが、死亡者・火災がともに0であったことは不幸中の幸いであったといえる。

 



被災状況写

 

1)橋台裏込め土の沈下

 日野川に架かる橋梁は、橋脚の背後が沈下し、1020cmの段差が生じている。

 橋梁の方向は北西−南東方向で、地震の揺れの方向と一致する。

 橋台の振動により、裏込め土が落ち込んだものと推定される。

 (日野町舟場)











2)橋梁裏込め土の沈下

 1)の上流部。(日野町岩田〜下榎)

















3)国道180号線 跨線橋

路面の変位状況。

 歩道擁壁が側方へ変位したため、盛土部分が沈下し、段差が生じている。

 (日野町根雨地区 富士見橋)














4)橋台部背面の段差

 橋脚背後が50cm程度沈下し、段差が生じている。

(日野町根雨地区 富士

 見橋)












5)同上

 応急処置により、段差が解消されている。

(日野町根雨地区 富士

 見橋)

 

 

 

 

 






6)国道180号線 跨線橋

 橋台周辺部のブロック積み擁壁にクラックが生じている。

 橋台自体には変状は認められない。

 (日野町根雨地区 富士見橋)




















7)ブロック積み擁壁のクラック

 変状に伴って盛土が変形し、擁壁上方に造られた階段及び歩道が沈下した。

(日野町根雨地区 富士見橋)



















 

8)擁壁背面の沈下と盛り上がり

 

 擁壁の振動により、舗装が沈下したり、擁壁の上にせり上がったりしている。

 擁壁は北西に面しており、最も大きな揺れが生じた。擁壁自体には変状は認められない。

 (国道180号線 日野町岩田〜根妻地区)
















9)同 上

 20cmの沈下が生じている。

(国道180号線 日野町

岩田〜根妻地区)












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